「狂言の足運びで、足の指を浮かせて歩くのは、この世のものではないという表現なのですか?」
たしかに狂言の足運びを初めて見ると、爪先が上がるのが気になりますね。能も基本的に同じです。
これには別段、役作りとしての表現はないと思います。もちろん役柄によって運びは変わりますし、能楽は運びに感情をものすごくこめる芸能です。
ですが、爪先の上がり下がり自体は、基本の歩き方です。
どうしてそうなるか。
立って止まっていて、まず片足が床を摺りながら前に出ます。無理に足首を伸ばすのでなければ、ほどほどのところまで出ると爪先は床から離れます。そのあたりで爪先を下ろしながら重心が前に移る。そうしたら後ろの足を引き寄せて、そのまま次の一歩として前へ出て、また爪先を下ろしながら体重移動。その繰り返しです。
それがそのうちに体のリズムになるので、あまり前へ出ない一歩でも爪先が少し上がりさがりします。
私も習いはじめの頃は、それらしくなりたくて、意識的に爪先をあげたものですが、むしろその頃によく注意されたのは、後ろにある足の、かかとの上がりすぎのことでした。
後ろの足に体重がかからなくなると、足から意識までもすっかり抜けて、足の裏を見せながらだらしなく引き寄せる格好になってしまう。それを注意されるのです。
ですからまた、足を引き寄せるときには、一旦少し上がったかかとを早めに床に付けるように意識したものでした。
足運びについての話は他にもたくさんあるのですが、今回はこれぐらいで。